「8時間眠らなきゃ」の思い込みを手放す ― 年齢に合った睡眠との付き合い方

「昔は朝までぐっすり眠れたのに、最近は夜中に目が覚めてしまう」「8時間眠ろうと早めに布団に入るのに、かえって眠れない」― そんなお悩みをお持ちではありませんか。実はこれ、多くの方が抱える共通の悩みであると同時に、年齢とともに起こる自然な変化でもあります。今回は厚生労働省が2024年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の内容も踏まえながら、60代以降の方の睡眠について、ご本人にも、高齢のご家族を支える方にも知っておいていただきたいことをまとめました。

必要な睡眠時間は、年齢とともに短くなっていく

睡眠について、まず知っておいていただきたい事実があります。それは、脳波を使って実際に眠れている時間を精密に測ると、年齢とともに夜間の睡眠時間が自然に短くなっていくということです。

具体的な数字でお示しします。

年齢 実際に眠れている時間(平均)
15歳前後約8時間
25歳約7時間
45歳約6.5時間
65歳約6時間

成人になってからは、20年ごとに約30分ずつ、夜の睡眠時間が自然に減っていきます。これは「衰え」や「異常」ではなく、人間の体に備わった生理的な変化です。若い頃と同じように長く眠ろうとすること自体に、そもそも無理があるのです。

「8時間睡眠」はすべての人に当てはまる目標ではありません。6時間でしっかり休養がとれる人もいれば、8時間以上必要な人もいます。大切なのは時間の長さではなく、ご自身にとって適切な時間を見つけることです。

それでも、「80歳を過ぎた自分は、夜8時には布団に入らないと体がもたない」と長年の習慣を変えない方にときどきお会いします。ご本人のお気持ちもよく分かるのですが、ここで一度立ち止まって考えてみていただきたいことがあります。夜8時に布団に入って朝6時に起きれば、布団にいる時間は10時間です。一方、80代の方が実際に眠れる時間はおおむね6時間前後。4時間近くも、眠れずに布団の中で過ごしている計算になります。

「夜中に何度も目が覚める」「寝つきが悪い」「早朝に目が覚めてしまう」― こうした訴えの多くは、実は不眠そのものというより、体が必要とする以上に長く布団にいることで、眠りが薄く引き延ばされている状態です。早く布団に入るほど、かえって眠りが悪くなる。少し不思議に聞こえるかもしれませんが、これが睡眠研究で繰り返し確認されている事実なのです。

「床上時間」と「睡眠時間」を分けて考える

高齢の方の睡眠を考えるうえで、もう一つ重要な考え方があります。それは、「布団の中にいる時間(床上時間)」と「実際に眠っている時間(睡眠時間)」を区別するということです。

20〜30代の方は夜に布団にいる時間が7時間ほどですが、45歳を過ぎると徐々に長くなり、75歳では7時間半を超える傾向があります。ところが前述のとおり、実際に眠れる時間は6時間前後に減っています。つまり、高齢になるほど「布団にいる時間」と「眠れている時間」の差が広がっていくのです。

この差が広がると、「寝つくのに時間がかかる」「夜中に何度も目が覚める」「眠った気がしない」という感覚につながります。これを不眠症状と感じてさらに早く布団に入る、という悪循環が生まれやすくなります。

高齢者では、床上時間が8時間以上になると、かえって健康リスクが高まることが複数の研究で示されています。長く寝ようとするほど、睡眠の質は下がってしまうのです。目安として、「普段実際に眠れている時間+30分程度」を床上時間の目標にしてみてください。

夜中に目が覚めることは、必ずしも「不眠」ではありません

高齢になると、夜中に1〜2回目が覚めることは、多くの方に見られる加齢に伴う自然な変化です。若い頃は深い眠り(徐波睡眠)が朝までまとまって続きますが、年齢とともにこの深い眠りが減り、眠りが全体的に浅くなっていくため、ちょっとした物音や尿意で目が覚めやすくなります。これは病気ではなく、しわが増える、髪が白くなるといった変化と同じ、体の自然な経過の一つです。

大切なのは、目が覚めた回数そのものではなく、その後の状態です。

目が覚めても、しばらくするとまた眠りに戻れる

朝起きたときに、ある程度すっきりしている

日中、強い眠気で困ることが少ない

この3つが保たれていれば、夜中に1〜2回目が覚めること自体を心配しすぎる必要はありません。むしろ、「夜中に目が覚めた=不眠症だ」と思い込むことのほうが、かえって眠りを悪くしてしまいます。目が覚めるたびに「また起きてしまった、どうしよう」と時計を確認し、焦るほどに脳が覚醒してしまい、再入眠が難しくなる ― これが、多くの方が陥る悪循環です。

目が覚めたら、時計を見ない。深呼吸をして、「また眠くなるのを待とう」と気持ちを緩める。20分ほど経っても眠れなければ、一度布団から離れて薄暗い場所で静かに過ごす ― こうした対応のほうが、結果的に早く眠りに戻れることがわかっています。

「睡眠で休養がとれた」という感覚を大切に

睡眠の良し悪しを考えるとき、これまでは「何時間眠れたか」ばかりに注目されてきました。しかし近年、「睡眠休養感」― つまり朝起きたときに”よく休めた”と感じられるかどうかが、健康と深く関わっていることがわかってきました。

実際、米国で行われた調査では、高齢者の方で床上時間が8時間以上あっても睡眠休養感が得られていない場合、死亡リスクが1.57倍に上がることが報告されています。一方で、睡眠時間が多少短くても休養感が得られていれば、リスクは上がりませんでした。

「○時間眠れた」という数字よりも、「朝、体がすっきりしているか」「日中、活動的に過ごせているか」を目安にする ― これが、加齢に合った睡眠との付き合い方のコツです。

睡眠休養感を高める日中の過ごし方

では、睡眠休養感を高めるにはどうすればよいのでしょうか。夜の工夫よりも、日中の過ごし方のほうが、実は効果が大きいことがわかっています。

朝、太陽の光を浴びる ― 体内時計がリセットされ、夜の自然な眠気につながります。

日中はできるだけ活動的に過ごす ― 家に閉じこもらず、散歩や買い物、庭仕事など、体を動かす時間を持ちましょう。

週に数回の軽い運動を習慣に ― ラジオ体操、ヨガ、ウォーキングなど、息が少し弾む程度の運動で十分です。

昼寝をするなら15〜20分程度、遅くとも午後3時まで ― 30分を超えると深い眠りに入ってしまい、起きたあとのぼんやり感が長引いたり、夜の眠りを妨げたりします。椅子に座ったまま、タイマーをかけて短く切り上げるのがコツです。

人と話す機会を持つ ― 地域活動や友人との交流も、昼夜のメリハリをつくり、よい眠りにつながります。

特に大切なのが、「昼夜のメリハリ」という考え方です。加齢とともに、昼間の活動と夜の休息の差が小さくなりがちです。昼間に体を動かし、夜はしっかり休む ― この差をはっきりさせることが、睡眠の質を高める一番の近道になります。

なかなか眠れないときの対処法

布団に入ってもなかなか眠れないとき、そのままじっと横になっていると、かえって「眠れない」という不安が強まり、眠りから遠ざかってしまいます。15〜20分経っても眠れないときは、一度布団から離れるのが、睡眠の専門家の間で推奨されている対処法です。

寝室以外の静かで薄暗い場所で、刺激の少ないこと(読書、ゆったりした音楽など)をして過ごし、眠気が戻ってきてから布団に戻ります。テレビをつけたまま寝る、電気をつけたまま寝るといった習慣も、知らないうちに眠りの妨げになっていることがあるので、見直してみてください。

生活を見直しても改善しないときは

ここまでお話ししたような生活習慣の工夫を2〜4週間ほど続けても、次のような状態が続く場合は、背景に睡眠障害が隠れている可能性があります。

日中の強い眠気や居眠りが続く(特に会話中や食事中にも眠くなる)

夜中、家族から「いびきがひどい」「呼吸が止まっている」と指摘される

夕方〜夜になると脚がむずむずして眠れない

十分な時間布団にいても、ぐったりとした疲れが抜けない

気分の落ち込みや意欲の低下も同時にある

特に、閉塞性睡眠時無呼吸むずむず脚症候群は、50代以降に増えてくる病気で、ご本人では気づきにくい特徴があります。高血圧や糖尿病、心臓病、認知症のリスクにもつながることがわかっており、治療によって睡眠だけでなく全身の健康が改善することも少なくありません。

きちんと睡眠と向き合いたい方へ

「生活習慣を整えてみたけれど、やはり眠れない」「家族からいびきや無呼吸を指摘された」「日中の眠気が仕事や運転に影響している」― そういった方には、一度きちんと睡眠の状態を評価することをおすすめしています。

当院では、内科的な観点から睡眠の問題を整理し、必要に応じて睡眠時無呼吸の検査が施行できる専門施設へのご紹介も行っています。「年のせいだから仕方がない」と諦める前に、ご相談ください。真剣に取り組もうとされる方には、こちらもできる限りの検討をいたします。

よしもと内科クリニック(旭川市永山5条19丁目1番40-4号) リウマチ科・内分泌内科
お電話:0166-85-6411