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こんにちは院長よしもとです。今回は前回のお話の続きのような記事になります。
高血圧症治療の目標は、血圧を適切にコントロールし、臓器障害や心血管イベントのリスクを低下させることです。この目的を達成するために、前回ご紹介したARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、カルシウム拮抗薬、利尿薬などを組み合わせた合剤が重要な選択肢となります。
『アンギオテンシン』は血管収縮作用やアルドステロンの分泌作用などにより血圧を上昇させるホルモンです。それに拮抗する薬=アンギオテンシン拮抗薬(略してARBと呼びます)
1. 合剤の利点
(1) 相乗効果による優れた降圧作用
ARBは血管拡張を促進し、カルシウム拮抗薬は血管平滑筋の弛緩を促すことで血圧を効果的に低下させます。さらに、利尿薬は体液量を調整し、心負荷を軽減します。これらの薬剤を組み合わせることで、それぞれの作用を補完し合い、単剤治療よりも高い降圧効果が得られます。
(2) 副作用の軽減
各薬剤の作用が相互補完的であるため、単剤使用時に見られる副作用を相殺できる場合があります。たとえば、利尿薬による低カリウム血症はARBによるカリウム保持作用で補われることがあります。
(3) アドヒアランス(治療継続率)の向上
合剤は複数の薬剤を一つにまとめることで服薬の煩雑さを軽減し、患者さんの治療継続率を向上させます。服薬を続けやすくすることは、長期的な血圧管理において非常に重要です。
2. 合剤の必要性
(1) 初期治療からの積極的な血圧管理
高血圧症ガイドライン2019では、血圧が高い場合や心血管リスクが高い患者さんには、初期治療から2剤併用療法を検討することが推奨されています。特に、ARBとカルシウム拮抗薬または利尿薬の組み合わせは効果的であり、初期治療の選択肢として有用です。
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高血圧症ガイドライン2019 pp77より一部引用
(2) 合併症リスクの軽減
高血圧に加え、糖尿病や慢性腎臓病などの併存疾患がある場合、合剤を使用することで血圧をより効果的にコントロールし、臓器障害や心血管イベントのリスクを低減させることが可能です。
(3) 個別化医療の実現
患者さん一人ひとりの病態に応じて適切な薬剤を選択・組み合わせることができるため、合剤は個別化医療の観点からも非常に有用です。
高血圧症の治療は患者さん1人1人の為の、テーラーメイド治療です。
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いかがでしたか。高血圧症は罹患されている方の多い疾患で、それ故にか、血圧の薬を「貰っているだけ」で、既往歴ではないと考えている患者さんもいらっしゃるのですが、それは違います。患者さん1人1人の生活や病態に合わせたテーラーメイド治療と言って良いと思います。
2024年末現在、日本で使用されている主な降圧薬配合剤はARBに各種薬剤を組み合わせた
①ARB +カルシウム拮抗薬
②ARB +サイアザイド系利尿薬
③ARB +ネプリライシン阻害薬
などが挙げられます。その他、計3剤が一緒になった降圧薬配合剤や脂質異常症治療薬であるスタチンとCCBが一緒になった薬剤もあるののの、使用頻度は低いです。
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勿論、お薬の価格(薬価)も治療を考えていく上で重要なポイントです。上の一覧表に1錠ごとの薬価(自己負担金ではありません)を追記したものが以下になります。
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これらの合剤は、臨床試験などで効果が確認され、さらに実際の処方頻度が高いことを踏まえて販売されています。ただし、高血圧症の治療では複数の薬剤を患者さんごとの状態に合わせて組み合わせる必要があるため、隣の方と全く同じ治療薬が処方されるケースは非常に稀です。
まとめ
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高血圧症の治療は患者さん1人1人の為の、テーラーメイド治療です。