去る2023年11月、米国糖尿病学会が「ADA診療ガイドライン2024年版」を発表しました。
https://diabetesjournals.org/care/issue/47/Supplement_1
ほぼ全ての論文が無料で読めますが、治療について言及される領域は多岐に渡り(食事・運動・治療・社会的なアプローチetc・・)、全て読み終えるには相当な時間が必要です。
ざっくりまとめますと
糖尿病治療の基盤
生活習慣の改善、糖尿病の自己管理教育、治療の遅延防止、社会的要因を考慮し、患者中心の意思決定を重視した治療を行うことが推奨されています。
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皆さんの健康は皆さん1人1人のものです。患者さん中心の医療を提供しましょうって事ですね。
薬物療法の選択基準
患者さんごとの心血管疾患や腎疾患リスク、治療効果、低血糖リスク、体重への影響、コストや薬の入手可能性、副作用、嗜好などを考慮することが推奨されています。
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日本ではジェネリック薬品を推進した結果、入手困難な薬剤が出てくるなど様々な問題も抱えており、そういった背景にも注意しながら治療を継続していく必要がありますね。
体重管理を考慮した治療
血糖管理だけでなく、体重管理の目標も考慮した治療法が求められています。
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血糖値「のみ」の改善ではなく、長期的な健康を維持する為に適切な体重管理も重要になってくるという事ですね。
早期の治療強化
治療目標を早期に達成するため、治療開始時から複数の薬剤を併用することが推奨される場合があります。
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血糖値の改善の為には治療開始時から2剤以上の薬剤が必要な場合があります。当院でも薬剤の変更は1回の受診につき可能な限り1剤までとしておりますが、治療が優先される場合には2剤以上の薬剤変更を行う場合があります。その際は2週間後の再受診をお願いする場合があります。
心血管疾患・腎疾患への対応
心血管疾患、心不全、慢性腎疾患のリスクが高い患者には、SGLT2阻害薬やGLP-1RAを含む治療法が推奨され、血糖値管理に加えこれらの疾患のリスク軽減に役立ちます。
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昨年10月に横浜市立大学 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の塚本俊一郎先生、田中翔平先生、涌井広道准教授、田村功一主任教授らの研究グループが日本人を対象とした新規GLP-1受容体関連薬の治療効果について発表されていました。この発表ではセマグルチド(商品名:オゼンピック、リベルサス)は体重を減少・低下させる効果が高く、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)は更に体重を低下させる効果があったと報告されていました。
インスリン治療の開始基準
重度の高血糖や代謝異常が進行している場合、インスリン治療を検討しますが、GLP-1RAを優先する場合もあります。
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通常、血糖が非常に高い状態で推移している場合、インスリンを用いた治療が一般的でしたが、ここでは新しいタイプの薬剤(GLP-1RA)を優先させる事もあると言及されているのが新しいポイントかと思います。
コストとアクセスの重要性
経済的な制約を考慮し、低コストな薬剤(例:メトホルミン、スルホニル尿素薬)も選択肢となります。
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血糖が高くなる体質は患者さん1人1人が上手に付き合っていく必要があります。継続して安定的な治療を行う為にも、薬剤費は重要な問題です。当院でも標準的な治療に軸をおきつつ、およその窓口負担を提案しながら一緒に治療を行って参ります。