地域の皆さまこんにちは。2026年に入り、やっと根雪の状態が維持されるようになってきました。
ご高齢の患者さんから「転倒するのがこわい」ので外出を控えているなんてことも良く聞かれます。
本日は転倒などを契機とした骨折を未然に防ぐための、「骨」についてのお話をさせていただきます。
近年、高齢化社会の進展に伴い、骨粗鬆症による骨折が増加しています。骨粗鬆症は「沈黙の病気」とも呼ばれ、骨折するまで自覚症状がほとんどありません。しかし、いったん骨折を起こすと生活の質だけでなく、生命予後にも大きな影響を及ぼします。
骨粗鬆症による骨折は「寝たきり」の大きな原因です
「骨粗鬆症」と聞くと、骨がスカスカになる病気、というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。しかし本当に怖いのは、骨がもろくなることでちょっとした転倒や、時には転ばなくても骨折してしまうことです。
骨粗鬆症による骨折は「脆弱性骨折」と呼ばれ、特に以下の4つが起こりやすいことが知られています。
- 大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)
- 椎体骨折(背骨の圧迫骨折)
- 上腕骨近位部骨折(肩に近い腕の骨折)
- 橈骨遠位端骨折(手首の骨折)
中でも大腿骨近位部骨折は最も深刻です。日本の全国調査では**1年後の死亡率が約10%**と報告されており1)、1年後に約3割の方が介護が必要な状態になるとされています。
さらに長期的な予後も深刻で、海外の研究では5年生存率が約60〜70%、つまり骨折から5年以内に3〜4割の方が亡くなると報告されています2)3)。この数字は乳がんや甲状腺がんなど一部の悪性腫瘍と同等であり、骨折が生命予後に与える影響の大きさを物語っています。日本の10年追跡研究でも、骨折後10年経っても一般人口の約2倍の死亡リスクが持続することが示されています4)。
なぜこれほど死亡率が高くなるのでしょうか。骨折そのものだけでなく、入院中の肺炎や血栓症、長期臥床による全身状態の悪化、そして骨折前から存在していた心不全や認知症などの合併症が重なることが原因と考えられています。
また椎体骨折は一度起こると連鎖的に次の骨折を招きやすく、背中が丸くなったり、身長が縮んだりする原因にもなります。
当院で健康診断を受けていただいた方には、若い頃と比べて3cm以上の身長低下がないか確認させていただく事があります。これは潜在的な骨粗鬆症リスクを評価するためでもあるのです。
なお、椎体骨折は一般の方がイメージする「ボキッと」折れるような骨折とは異なります。
下の図のように、椎体(背骨を構成する骨)が徐々につぶれていく形で進行することが多いのが特徴です。そのため、明らかな外傷がなくても「いつの間にか骨折」していることがあり、腰痛や背中の痛みとして気づかれることもあります。
つまり骨粗鬆症の治療とは、単に「骨を強くする」ことではなく、将来の骨折を防ぎ、自分の足で歩き続けられる生活を守るための治療なのです。

骨粗鬆症とはどんな病気か
骨は一見変化しないように見えますが、実際には常に新陳代謝を繰り返しています。古くなった骨を壊す「骨吸収」と、新しい骨を作る「骨形成」のバランスが保たれることで、骨の強さが維持されています。
しかし加齢や閉経後のホルモン変化、あるいは特定の病気や薬剤の影響により、このバランスが崩れて骨吸収が骨形成を上回ると、骨の量(骨密度)や質が低下します。これが骨粗鬆症です。
骨粗鬆症の診断には骨密度測定が用いられます。結果は「YAM」(若年成人平均値:Young Adult Mean)と比較したパーセンテージで表され、YAMの70%以下で骨粗鬆症と診断されます。
「骨折の危険性が高い骨粗鬆症」とは
骨粗鬆症の中でも、特に骨折リスクが高く、より積極的な治療が必要とされる状態があります。以下のいずれかに該当する場合です。
- 骨密度がYAM 70%以下で、すでに脆弱性骨折を起こしたことがある
- 腰椎の骨密度がYAM 60%未満
- 椎体骨折が2か所以上ある
- 椎体骨折の程度が重度(グレード3)である
このような重症の骨粗鬆症では、骨折を起こす前に、速やかに骨を強くする治療を開始することが非常に重要です。一度骨折すると次の骨折リスクがさらに高まる「骨折の連鎖」を防ぐためです。
骨粗鬆症の治療薬について
骨粗鬆症の治療薬は、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。
| 分類 | 作用 | 代表的な薬剤 |
|---|---|---|
| 骨吸収抑制薬 | 骨が壊されるのを抑える | ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸、リセドロン酸など)、デノスマブ(プラリア)、SERM(ラロキシフェン、バゼドキシフェンなど) |
| 骨形成促進薬 | 新しい骨を作る力を高める | テリパラチド(フォルテオ、テリボン)、アバロパラチド(オスタバロ) |
| 両方の作用を持つ薬 | 骨吸収を抑えながら骨形成も促す | ロモソズマブ(イベニティ) |
内服薬としてはビスホスホネート製剤やSERMがあり、毎日、週1回、月1回など様々な服用間隔の製剤があります。注射薬には半年に1回の皮下注射であるデノスマブや、毎日または週1回の自己注射を行う骨形成促進薬などがあります。
どの薬剤を選ぶかは、骨密度の程度、骨折の有無、年齢、他の病気や服用中の薬、生活スタイルなどを総合的に考慮して決定します。
骨形成促進薬「オスタバロ」について
ここでは、骨折リスクの高い骨粗鬆症に対する治療選択肢の一つとして、アバロパラチド酢酸塩(商品名:オスタバロ)をご紹介します。
オスタバロの特徴
オスタバロは、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)の働きを利用した骨形成促進薬です。骨を作る細胞を活性化させ、骨吸収を上回る骨形成を促すことで骨量を増加させます。
臨床試験では以下の効果が確認されています。
- 腰椎の骨密度上昇と椎体骨折の発生率低下
- 大腿骨近位部(股関節周囲)の骨密度上昇 — 一般的に骨密度を上げにくい部位ですが、オスタバロは従来の類似薬(テリパラチド)と比較しても高い上昇率を示しています
大腿骨近位部骨折は最も生活への影響が大きい骨折であり、この部位の骨密度を効果的に上昇させられる点はオスタバロの大きな特徴といえます。
使用方法と費用
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投与方法 | 1日1回、80μgを皮下注射(自己注射) |
| 使用期間 | 最長18か月 |
| 薬価 | カートリッジ1本(14日分)16,128円 |
| 自己負担目安 | 3割負担:月約9,700円 / 1割負担:月約3,200円 |
| 保存 | 冷蔵保存 |
専用のオートインジェクターが用意されており、投与履歴や残回数の確認、カートリッジ交換時期のお知らせ機能があります。ご本人だけでなく、ご家族や医療者が注射状況を確認できる点も安心です。
主な副作用と使用できない方
主な副作用として、吐き気、めまい、動悸、血中カルシウム値の上昇などが報告されていますが、臨床試験では重篤な副作用は認められていません。投与後30分程度は安静にすることが推奨されます。
以下に該当する方は使用できません。
- 高カルシウム血症のある方
- 骨肉腫のリスクがある方(骨への放射線治療歴など)
- 骨転移のある悪性腫瘍
- 副甲状腺機能亢進症などの代謝性骨疾患
- 妊娠中の方
- 本剤に対するアレルギーのある方
類似薬(フォルテオ)との違い
同じPTH製剤であるテリパラチド(フォルテオ)と比較すると、主な違いは以下の点です。
- 大腿骨近位部の骨密度上昇効果がより高い
- 最大投与期間が18か月(フォルテオは24か月)
- 投与管理機能付きデバイスがある
- 現時点で後発品(ジェネリック)がない
治療を始めるタイミング
骨粗鬆症は「沈黙の病気」とも呼ばれ、骨折するまで自覚症状がほとんどありません。そのため、健診などで骨密度低下を指摘された段階で、一度専門的な評価を受けることをお勧めします。
現時点で薬物治療の対象とならない方でも、将来の骨折リスクを知っておくこと、そしてどのような治療選択肢があるかを理解しておくことは、いざという時の備えになります。
骨粗鬆症の治療は、骨折してからではなく、骨折する前に始めることが最も効果的です。ご自身やご家族の骨の健康について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事が骨粗鬆症の予防と治療の重要性について、皆さまのご理解の一助となりましたら幸いです。
ご自身やご家族の骨の健康についてご心配なことがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- Inage K, et al. Current status of patients with hip fracture in Japan: A nationwide survey. J Orthop Sci. 2025. PMID: 40592642
- Kim SM, et al. Five-year relative survival of patients with osteoporotic hip fracture. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99(1):97-100. PMID: 24203068
- Haentjens P, et al. Meta-analysis: excess mortality after hip fracture among older women and men. Ann Intern Med. 2010;152(6):380-90. PMID: 20231569
- Tsuboi M, et al. Mortality and mobility after hip fracture in Japan: a ten-year follow-up. J Bone Joint Surg Br. 2007;89(4):461-6. PMID: 17463112
- 帝人ファーマ オスタバロ説明サイト https://medical.teijin-pharma.co.jp/product/iyaku/os.html
- PMDA オスタバロ添付文書 https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/470310_2439403A1020_1_05
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
