その鼻水、風邪ですか?
それとも花粉症ですか?
毎年この季節になると、「熱はないのに鼻水が止まらない」「くしゃみが続いて仕事に集中できない」という訴えで来院される方が急増するのですが、製薬メーカーさんからの情報提供を受け、「そういえば今年はいつもより早く、鼻汁の症状を訴える患者さんが増えてきてるのでは」と感じました。内科外来で特に判断に迷うのが、感冒(かぜ)なのか、アレルギー性鼻炎(花粉症)なのか見極めが難しいケースです。北海道・旭川には本州とは異なる固有の花粉カレンダーがあります。今回は最新の花粉飛散予測、医学的なメカニズム、そして治療の考え方をまとめてお伝えします。
2026年、北海道の花粉シーズンはどうなる?
日本気象協会は2025年12月2日に「2026年春の花粉飛散予測(第2報)」を発表しました。北海道・東北を中心に、例年の2倍以上の飛散量となる地域もあるという厳しい予測内容となっています。
② 前シーズン(2025年春)の北海道の飛散量が例年より少なかった → 翌年への「反動増」が生じる傾向がある。
この2つの要因が重なったことで、北日本での大幅増が見込まれています。
北海道の花粉カレンダー
本州のスギ・ヒノキとは異なり、北海道ではシラカバをはじめ多彩な花粉が年間を通じて飛散します。北海道立衛生研究所が旭川市を含む道内7地点で継続してきた観測データをもとに、主な花粉の飛散時期をまとめました(旭川市は1998年から観測継続中)。
🍎 シラカバ花粉症と口腔アレルギー症候群(OAS)
シラカバ花粉症の方は、リンゴ・モモ・サクランボ・セリ・ニンジン・キウイなどを食べると口の中がかゆくなる「口腔アレルギー症候群(OAS)」を併発することがあります。これは花粉のアレルゲンタンパクと食物タンパクの構造が類似しているため(交差抗原性)に起こります。シラカバ花粉症が疑われる方でこうした症状がある場合は、受診時にお知らせください。
なぜ花粉症になるのか ── 免疫とアレルギーのしくみ
当院はリウマチ科・内分泌科を標榜する内科クリニックですが、花粉症は「免疫の過剰反応」という点で、リウマチ性疾患と根底を共有する疾患です。関節リウマチは免疫が自己組織を攻撃する「自己免疫疾患」、花粉症は本来無害な花粉に対して免疫が過剰反応する「アレルギー疾患」と方向性は異なりますが、どちらもIL-4・IL-13・IL-33などの炎症性サイトカインを介した免疫調節の破綻という共通した構造を持っています。
🔬 IgEとは何か
免疫グロブリンの一種で、花粉・ダニ・食物などの「本来無害な抗原」に対して産生される抗体です。本来は寄生虫排除のためのしくみが、清潔な現代環境では行き場を失い、花粉に過剰反応してしまうと考えられています。
🧬 リウマチとアレルギーの共通点
関節リウマチは自己免疫(免疫が自己を攻撃)、花粉症はアレルギー(無害な抗原に過剰反応)と方向性は異なりますが、IL-4・IL-13・IL-33など多くの炎症性サイトカイン経路が重なります。「免疫調節の破綻」という共通の構造があります。
💊 なぜ抗ヒスタミン薬が効くのか
マスト細胞から放出されたヒスタミンがH1受容体に結合するとくしゃみ・鼻水・かゆみが生じます。第2世代抗ヒスタミン薬はこの結合を競合的に阻害します。脳内H1受容体占拠率20%以下の「非鎮静性」薬剤が現在の主流です。
🌱 舌下免疫療法とは
花粉の抗原を少量ずつ舌下に投与し、免疫を「慣れさせる」根治的治療です。スギ舌下錠(5,000JAU)は1年目から約30%の症状抑制効果が確認されています。治療開始はシーズン後(5月〜12月)が目安です。
外来でよく遭遇する場面:「これ、風邪ですか?」
🤔 この時期によく聞かれる主訴
- 「熱はないけどくしゃみと鼻水が何日も続いている」
- 「鼻水は出るけど咳はほとんどない。風邪かな?」
- 「目もかゆくて、毎年この時期になると調子が悪い」
- 「市販の風邪薬を飲んでも効かない」
- 「のどの痛みは最初だけで、鼻症状だけが続いている」
発熱も強い咳もなく、水様性の鼻汁・くしゃみを主体とした症状が数日以上続く場合、アレルギー性鼻炎を真っ先に鑑別すべきです。ただし実際には「咳のない鼻かぜ」も存在するため、症状だけで断言することは難しく、丁寧な病歴聴取が鍵になります。
| 比較項目 | 感冒(かぜ) | アレルギー性鼻炎(花粉症) |
|---|---|---|
| 発症のきっかけ | ウイルス感染(飛沫・接触) | 花粉・ダニ等の抗原曝露 |
| 鼻水の性状 | 初期は水様性→粘稠・黄色に変化することも | 一貫して水様性・透明なことが多い |
| くしゃみ | あるが頻回でないことが多い | 連続して多発することが多い |
| 目のかゆみ | ほぼない | しばしば伴う(アレルギー性結膜炎) |
| 発熱 | しばしば伴う(微熱〜高熱) | 基本的にない |
| 咽頭痛 | 初期に多い | 基本的にない(後鼻漏で違和感はあり) |
| 症状の持続 | 1〜2週間で自然軽快することが多い | 飛散期間中(数週間〜数ヶ月)持続 |
| 毎年の繰り返し | 通常ない | 「毎年この時期だけ」が多い |
| 屋外との関係 | 特にない | 外出後・窓開け後に悪化しやすい |
⚠️ 2週間以上続く鼻症状は要注意
感冒は通常1〜2週間以内に軽快します。鼻水・くしゃみが2週間以上続く場合、特に毎年この時期に繰り返す場合は、花粉症(アレルギー性鼻炎)の可能性を積極的に考える必要があります。市販薬が効かない場合は早めの受診をお勧めします。
重症度に応じた治療の考え方
鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版(改訂第9版)では、病型(くしゃみ・鼻漏型 / 鼻閉型)と重症度を組み合わせて治療を選択することが推奨されています。
-
1非鎮静性・第2世代抗ヒスタミン薬を基本に 脳内H1受容体占拠率20%以下の薬剤を選択します。眠気・集中力低下・学習能力への影響が少なく、安全性の高い薬剤が現在の主流です。高齢者・腎機能低下・肝機能障害のある方では薬剤選択に個別の注意が必要です。
-
2花粉飛散前からの「初期療法」が効果的 症状が出てから治療を開始するよりも、飛散開始前〜直後から内服を開始することで、ピーク時の症状を有意に軽減できます。「毎年つらい」という方は、シーズン前に受診してください。
-
3中等症以上では鼻噴霧用ステロイド薬を併用 局所作用が主体で全身的な副作用は少なく、鼻閉に対して特に有効です。抗ヒスタミン薬との併用が中等症〜重症の標準治療です。抗ロイコトリエン薬(抗LTs薬)の追加も鼻閉型に有用です。
-
4根治を目指すなら舌下免疫療法 スギ舌下錠は3〜5年継続することで長期的な症状軽減が期待できます。スギ・ダニの2剤併用療法の安全性も臨床研究で確認されています。治療開始はシーズン後(5月〜12月)が適しています。
-
5重症・最重症には抗IgE抗体療法(オマリズマブ) 2019年12月、世界初の鼻炎領域バイオ製剤として適応追加。標準治療(抗ヒスタミン薬+鼻噴霧ステロイド)を1週間以上継続しても重症以上の症状が続き、スギ特異的IgEクラス3以上を満たす場合に使用可能です。最適使用推進ガイドラインに従った専門的管理が必要です。
花粉シーズンのセルフケア
🌿 日常生活での対策ポイント
- 外出時はマスク・眼鏡(またはゴーグル型)で花粉を防ぐ
- 帰宅時は玄関前で衣服の花粉を払う。花粉のつきにくい素材の衣類を選ぶ
- 花粉飛散の多い日(晴れ・乾燥・風の強い日、特に午後)の外出を控える
- 洗濯物は室内干しに。布団を外に干さない
- 北海道立衛生研究所の花粉飛散情報(旭川市含む道内7地点、毎年更新)を活用する
- 「毎年つらい」という方は、シーズン前に受診して初期療法を開始する
内科でできること、耳鼻科の先生にお願いすること
当院では、問診・症状や経過に応じて血液検査(特異的IgE検査含む)・薬物療法・舌下免疫療法の導入まで、内科として一定の範囲で対応しています。しかし鼻腔の専門的な評価や処置は耳鼻咽喉科の領域であり、かかりつけ医として「自分の得意・不得意」を正直にお伝えすることも大切な役割と考えています。
🏥 このような症状・状況では耳鼻科へ
① 薬を続けても症状が十分に改善しない(治療抵抗性の重症・最重症例)
② 鼻が詰まって口呼吸が続く・いびきが悪化した(鼻茸・鼻中隔弯曲症等の合併疑い)
③ においがわからなくなってきた(嗅覚障害:副鼻腔炎の合併疑い)
④ 黄色〜緑色の膿性鼻汁が続いている(副鼻腔炎=蓄膿症の合併疑い)
⑤ 抗IgE抗体療法が必要な重症例(最適使用推進ガイドライン上、専門的管理が必要)
⑥ 鼻腔形態異常を伴い手術が必要な可能性がある場合
「風邪か花粉症かわからない」という段階では、内科・かかりつけ医への相談で十分です。ただし、薬が効かない・症状が長引く・鼻以外の症状も気になるという場合は、耳鼻咽喉科専門医の先生への相談を積極的にお勧めします。一般的な診療を開始した後、上記のような経過で判断に悩む場合は当院から紹介状(診療情報提供書)の作成も可能ですので、お気軽にご相談ください。
・日本気象協会「2026年春の花粉飛散予測(第2報)」2025年12月2日発表
・北海道立衛生研究所「花粉症」https://www.iph.pref.hokkaido.jp/…/kafunshou1.html(旭川市1998年〜)
・後藤穣「最新のアレルギー性鼻炎治療―ガイドライン改訂と抗ヒスタミン薬による治療戦略―」日本耳鼻咽喉科学会会報 124:943–947, 2021
・鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会「鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版(改訂第9版)」ライフ・サイエンス, 2020
・松原篤ほか「鼻アレルギーの全国疫学調査2019」日耳鼻 123:485–490, 2020
・花粉症診療ガイドブック2026 北海道・東北エリア版(監修:大久保公裕 先生/日本医科大学花粉症学講座 教授)
鼻の症状でお困りの方、ぜひご相談ください
「毎年この時期につらい」「薬が効かなくなってきた」「風邪かアレルギーかわからない」
当院では丁寧な問診・血液検査(特異的IgE検査含む)をもとに、
ガイドラインに沿った診療を行っています。
必要に応じて耳鼻咽喉科への紹介状の作成も行っています。
